Rock under the Sun: 大峯大橋〜洞辻茶屋〜山上ヶ岳〜レンゲ辻〜大峯大橋

日本岩より大峰山脈を望む


この土日は晴天ということだったので、大峯山を目指すことにした。6時にルーテシアで家を出ると、丁度日の出だった。朱色よりも清らかな光の溜まりが山の端から不意と滲み出るように現れた。もうすぐ春分である。
山城と大和の二つの盆地を疾走して吉野川を越えてR309で一路南へ。広橋の辺りは斜面一杯に梅が満開である。隘路と長大隧道を抜けて天川村に入り、r21大峯山公園線を経て洞川の町並みを過ぎ、母公堂の辺りから道は凍った雪に覆われる。凍っているなりになんとか前進して大峯大橋の少し手前に車を停める。


09:00出発、路上は過半が氷結していた。雪は表面こそ凍っているものの中はざらざらの腐った雪になっている。快晴に近い好天で、直ぐに汗ばんでくる。半ば雪、半ば地面(境界は一度溶けた水が氷結)なので歩きにくい。それでも徐々に高度を上げていく。暑いのでシャツを脱ぎ、上は長袖の下着だけに(薄い長袖のTシャツだと言い張れなくもないが…)。1時間20分程で洞辻茶屋を通過、少し進んで鐘掛岩辺りの急斜面が厳しい、雪に滑って踏み外せば奈落の底である。アイゼンを装着して少しずつ登る、稜線は風が強いので再びシャツを着る。這々の体で大峯山寺に到着。

本堂も雪の中である、しかしこれが奈良県の寺だと言ってもなかなか信じて貰えそうにないが。


本堂の南側は見晴らしの良い笹原(「お花畑」と名付けられているが…花はないと思う)だが、一面の雪原で、その向こうに大峰山脈の峰々が聳えている。前回はガスで全然見えなかったのだが。

トレースはあるが、誰もいない静かな光景だった。



お花畑を少し北に戻る、何も考えずに歩くと腐った雪に足を取られるのでそろりそろりと歩く。北側の岩場は日本岩と呼ばれていて、展望が良い。風は強いが日差しが暖かいので清々しい、若干筋雲が出て薄曇りになってきたが視界を妨げるほどではない。

南の山々は、手前に大日山と稲村ヶ岳、その奥に弥山と八経ヶ岳の近畿最高峰、更に奥は仏生ヶ岳、釈迦ヶ岳の奥駈道深部。
直ぐ下には洞川の集落、更には大和平野の奥にぼんやりと金剛山葛城山が並んでいる。
11時半、少し早めのお昼。コーヒーとコンビニのおにぎり、アミノバイタルカロリーメイトと相変わらず味も素っ気もない。大体、山で美味しいものを食べたいとか余り思わない。どちらかというと栄養があって軽い方が良い(珈琲は別だが、それでも山ではインスタントで文句はない)。


このまま下山しようかとも思ったが、折角なのでレンゲ辻〜山上辻経由で稲村ヶ岳を目指せないかチャレンジしてみることにする。レンゲ辻への下りは鉄の階段と尾根の急斜面が続く。そしてレンゲ辻まではトレースがあったものの、その先はトレースは途切れていた。南側斜面は断崖なので道は北側の雪の多い斜面の下にある筈だが、残雪は完全に腐っていて脚を悉く呑み込んでしまう。トラバースは容易なことではないし、尾根を直登するのも同様に困難と判断し、諦めて大峯大橋へ降りることにする。
レンゲ辻からは谷を降りてそのまま橅や樅の谷沿いに行くルートである。残雪の白い輝きと雪解け水のざわめきが心地よい。


森は時間を遅延させる様に思われる。雨が降っても、非常にゆっくりと地面へと辿り着く。外は雨が上がっていても、森の中ではまだまだ雨が降っていることは、森を歩いた人ならば知っているだろう。恐ろしく古い木々、遠い時間が聳えている。
降り積もる雪も又、時の中に白く軌跡を描きつつ埋め尽くし、永い遅延の後に水となって溢れてゆく。
そして、言葉と文字の作用を辿り切った先に、遅延ということの中から(同時に時間でもある)意味が生成されるのだとすれば、雪と森はそれぞれが最初の意味の一つだろう(逆に言えば、海には遅延はなく、したがって常にそれ自体と同期しているが故に意味はない)。
雪の渓谷という、言葉に先立つ意味の広がり、一つの巨大な遅延の中をざくざくと踏みしめながら下ってゆく。


2時前、林道の終点に辿り着く。此処からは舗装路と言いたい所だが、冬季は此処まで車は来ないので雪に埋もれている。2時過ぎに車の所まで戻る。
方向転換に難儀するかと思ったが、難なく向きを変えて下ってゆく。ごろごろ水(湧水)の駐車場に車が入りきれずに溢れ返っていたので吃驚した、みんな暇なんやなあ。
洞川の土産屋で葛湯を買って、そのまま天川川合からR309に。黒滝の道の駅で休憩がてら大きな蒟蒻のおでんを頂く。自家製の蒟蒻はあっさりとしゃきしゃきした食感で美味だった。
大和盆地は渋滞だろうからということでそのままR309を辿って金剛山葛城山の下を隧道で抜けて大阪平野に入り、和泉ナンバーの暴走振りに呆れながら阪和道〜近畿道名神と贅沢に高速を乗り継いで帰宅。大分疲れていたので、早く帰りたかったのだ。6時頃帰宅。



(カシミール3Dにより作成)