SPEED THROUGH SNOW: 阪急芦屋川駅〜六甲山最高峰〜阪急宝塚駅

今日は寝坊で、おまけに忘れ物をして取りに帰るという失態を演じてしまい、電車でさっと行ける山で、まだ登っていない山ということで六甲山に決める。実は、昨日ル=グインの『所有せざる人々』が届いたので、思わず読み耽ってしまったのだった。電車の中で続きを読む。
鉄橋で武庫川を越えると、行政区分とは関係なく、神戸の玄関に入ったなと思う。川向こうは震災後の真新しい建物が続く。不意と


その美しさ故に大地へ犠牲に供された街


という言葉が浮かび、目頭が熱くなる。夙川駅前も何処にでもある店ばかりになって、我々はものすごく無駄遣いをしながら貧しい生活をしているのだな、と思う。


芦屋川駅に着いたのは9:45だった。駅自体が斜面に建っているので、すぐに住宅地(と言うより洋風邸宅街)の登りになり、滴翠美術館の前を通って会下山遺跡に入る。瀬戸内に点在する高地性集落で、大阪平野から淡路島を見渡す観測点になっている。よく山城と称されるが、防御設備がある訳でもないし、軍事拠点とは呼び辛い。統治(支配、防衛、祭祀…元々は混然としたものだった)としての国見をしたのだろう。
ここから尾根を登ってゆく、朝は雨だったが、その後は日差しがあり、風も弱くて暑いくらいである。汗ばんできたので上はTシャツ1枚になる。岡本、本山からの道が次々と合流してロックガーデンのなかをくぐると、しばらくなだらかな場所が続く。この高原状の辺りに山小屋でも建てて住めたら良いなと思っているとゴルフ場があった(中に入ってコースの間を抜ける、公認ルート)。麓から見えないこういう地形はゴルフ場が多い、裏山もそうやし。


ゴルフ場を抜けた辺りで再び登りになり、雨ヶ峠には所々残雪。ここから住吉川最上流域へと下り、沢をある程度詰めてから一気に主稜へと登ってゆく。ほぼ完全に雪道となり、急な登りなのでかなりきつい。この辺りで先行していたグループはあらかた抜いてしまった。
真っ白な主稜に辿り着く。ドライブウェイはほぼ除雪されていてチェーンは不要の様だが、歩いて登った身としては車で来るなよ軟弱者と言いたくなる。まあ、私も車で来たこともあるけど……でも、歩いて登った方が絶対楽しい。

稜線に出た途端、北からの風が吹き付けて非常に寒い。慌ててシェルとグローブを装着、踏み固められた斜面を最高峰へと登る。季節柄かも知れないが、頂上は思ったよりも静かな場所だった。此処でちょうど正午。御影石に腰掛けて、スープとカロリーメイトにコーヒーとウィダーインゼリー、デザートに干したクランベリーという昼食(急いでいてコンビニでおにぎりとかパンとか買えなかった)。真正面に六甲アイランドが見える。


最初は、魚屋道を有馬まで歩こうかと思っていたのだが、山頂からだと残り4〜5kmしかないので詰まらないなあと思いつつ、ドライブウェイまで戻る。そこで不意と「宝塚」の目印を見付けて、そうやん、縦走路を東に行ったらええやんと思いついた。宝塚まで12~13km、ちょうど良い具合である。
ドライブウェイと平行して歩き、石宝殿を過ぎて山道に入る。南斜面はそうでもないのだが北斜面がかなり凍結していて歩き難いので、これはアイゼンの練習によいとばかりに新品のアイゼンを装着して下る。途中何度も調整したので思ったより時間を食ってしまったが、練習にはなった。
気がつくと西宮市である。稜線を幾分巻きながら進む道は明るい雑木林が続き快適で、所々から甲山や大阪平野が見渡せる。時々雪がちらついたが、大きくは崩れない。足が張っているのを我慢しつつ、でも快調にすっ飛ばして塩尾寺到着。最後は此処から舗装道の下りだが、これが滅茶苦茶に急で、膝を痛めない様にゆっくり降りるのが大変だった。
最後に宝塚に来たのは大分前で、ファミリーランドがまだまだ元気だった頃だった。武庫川と歌劇場こそ変わっていないが、両岸を高層建築が埋め尽くしている様は、嘗ての華やかさと長閑さが調和していた宝塚を知っている人間にとっては唖然とする。宝塚温泉がコンクリート打ちっ放しの8階建てで、大きな橋で高架の駅と繋がっているというのは……これが土地利用の最適化、開発というものなのだろう。
15:25、宝塚駅到着。六甲は明るい山だった。今回はフル装備だったが、雪が無ければかなり整備された道なので、近い内に靴とザックを軽量のものにして、全山縦走にチャレンジしてみたい。須磨浦公園駅(or塩屋駅)〜宝塚駅の55.4kmというフルマラソンを越える山岳コース、挑戦し甲斐があると思わへん?


(カシミール3Dにて作成)