冬の舳先(part 1)

今週は東京へ出張だった。2日間の予定が終わって、その晩に友人と東京駅辺りで飲もうという約束を取り付けた。予定が少し早めに終わり、尚且つホテルが御茶ノ水靖国通りの間だったので、東京駅まで歩いてみることにした。
何時も暗く静かな外堀と神田川、この控え目な円環が実は東京の隠れた構造基盤になっていると思う。堀割によって得られている眺望は、結局は点の集合に過ぎない高層化とは別の、連続的な奥行きによってこの都市の空間軸を構成している。
外堀通りを歩いて、堀の向こうに大手町のビル群を望みながら日本銀行の角を折れて三井の中枢へ。此処(中央通りの西側)だけは戦前の雰囲気である。三井本館の脇を歩いていると、日本においても資本主義の威力は圧倒的であったことをひしひしと感じるし、また三菱の建物に薫る「国家と共に」という気風とは又違った、「富こそは永遠ならん」という気概(資本主義とは結局それであろう)がある。


日本橋を渡る。幅の広い重厚な橋で、更に上を首都高速が走っているので、非常に水平方向の強調された空間である。高速を地下化するという話もあるらしいが、超高層化によって風景の垂直化が進む周囲のアクセントとしてはこれでも良いような気もする。
野村證券の前を通って、高島屋の手前で右に折れて東京駅八重洲北口へ。八重洲の北と南に真新しい高層ビルが聳えて風景が一変している。北側のビルには大丸東京店大和証券グループが入っているようだ。
まだ少し時間があったので、丸の内側に出て更にそのまま和田倉門の前まで歩く。平日の夕方なので、周囲のビルは煌々と明かりを湛えて輝く。宮城と東京駅を結ぶ行幸通りは、ある意味で最も象徴的な都市基軸(にしては短すぎるが)だが、その両側に聳える丸ビルと新丸ビルは、おそらく日本で最も成功したツインタワーだろう。


丸善本店の入っているOAZOの前で友人と合流し、新丸ビルへ。濃いブラウンとガラスを基調にした吹き抜けのデザインは、アール・デコを下敷きにしながらも現代風にシンプルに纏めている。とはいえ、中の店舗は、UnitedArrowsBEAMS、居酒屋など大衆的な雰囲気である。フリースペースを十分に取ってはいるが、しかし外気とは無縁の空間ではどうしても息が詰まってしまうのは私独特の皮膚感覚なのだろう、風と共に流動しない大気というのは生に対する冒涜に思われるのだが。
ともあれ、5階の天麩羅屋で天麩羅にする。シャブリと久保田で頂く白魚、鯒、メゴチ、鱚、蕗の薹、タラの芽、ワカサギなどなどは大変に美味であり、会話も大変に痛快であった。その後チャイニーズバー(?)で摩天楼を見上げながら少し飲み直す。
ホテルに戻ったのは日付が変わる少し前であった。